大学病院で、お年寄りばかりの6人部屋の一番廊下側に彼女は寝ていました。
結婚を目前にし、輝くような白いウェディングドレスの仮縫いも終わったばかりなのに、脱髄疾患という原因の判らない病気は、こうして時折暴れては手足の神経を麻痺させ、彼女を苦しめるのです。
何の医療技術も持たない私が彼女にしてあげられることはたったひとつ、習得した手技で、祈るように感覚の鈍った彼女の手を、持ってきたラヴェンダーとベルガモットのエッセンシャルオイルでマッサージし続けました。そして「夜眠れなかったらこれを使って」と、ラヴェンダー・オイルとそれを拡散するデフューザーを渡しました。
「こんな嫁なら要らないですよね・・」
帰り際につぶやいたこの言葉を搾り出すまでに彼女が耐えたであろう幾晩もの眠れない夜を思い、帰りの新幹線の中では涙がこぼれて仕方がありませんでした。

翌日私の携帯に一通のメールが入りました。
「今まで睡眠剤を飲んでも眠れなかったのに、昨日は夢も見ずにぐっすり寝ました。眠ったことで身体も気持ちも本当に楽になりました。」
そのとき初めて助けを求めている人のためにできるものを、たった一つだけ私は身に着けたのだ、と気付きました。
医師である夫や息子が「だから医者になったのだ」と話す価値観と、ぱちっと何かが一致したように感じた瞬間でした。
50歳のアロマセラピスト、この日が新しい出発の日でした。

病気は突然やってきて身体に異変を起こし、それだけではなく何の責任も無いその人の精神をも傷つけ、QOL(生活の質)を奪っていきます。
確かな医療技術を受けつつも、ストレスの多い人生のバックグラウンドや叶えられないささやかな日常を前にしてもがいている方たちのお役に立ちたいという思いから、オフィキナリスは生まれました。
歴史が浅く、本来の意味が見失われがちな日本のアロマテラピー。
アロマテラピーはどこに必要なのか、という思いが、オフィキナリスを動かしているのです。


2007年 盛夏

officinalis代表  西島 眞奈