妊娠・出産、または更年期という女性の体調の変化は、よく山の上り下りにたとえられます。内分泌によって支配されるこれらの山は、男性に比べてはるかに険しく、長いものです。 産婦人科医療の実態とそこに通う患者様を身近に見、確かな医療技術を享受しつつも叶えられないものは何かを考えてきた視点と時間は、香り高い精油を用いて心身に働きかけるアロマテラピーという方法にたどり着きました。

アロマテラピーとは直訳すれば「芳香療法」。
植物から採取されたエッセンシャルオイル(精油)を、嗅覚から捕らえ、また血流に乗せて身体に取り込むことによって、さまざまな精神的・肉体的症状を緩和させる方法です。
今当たり前のように使われている抗生物質が発見され、普及し始めて実はまだ半世紀、西洋医学の曙を見た日でさえそれほど遠い昔のことではありません。それ以前はそれぞれの国や地域で古来歴史的・体験的に伝えられた方法で、人々は傷を癒し、神経を鎮め、感染を食い止めようとしてきました。
近代アロマテラピーは、抗生物質が発見される以前に遡ること約20年。フランスの化学者にして調香師のルネ・モーリス・ガットフォセが、それまで人々が体験的に用いていた精油を、4人の医師とともに実際の症例に使いながら、成分を化学的に分析して1冊の本にまとめたことにより、幕を開けました。
その後、西洋医学が目覚しい発達を遂げたことにより、彼の研究成果であるアロマテラピーは、修正されながら非常にゆっくりとした時間の中に埋もれることになりました。
しかしそこに彼がいなければ、アロマテラピーは未だ魔女の鍋の中にしか存在しなかったことでしょう。

西洋医学が主流となった現代においては、アロマテラピーは代替療法として位置づけられ、現代医療を側面的に補うものとされています。
ガットフォセや、インドシナ戦争で精油を用いて治療にあたったジャン・バルネ博士の例を引くまでも無く、西欧諸国においてはその歴史的な裏づけと根付いた意識により、現在もアロマテラピーは医療に非常に近い位置を歩んでいます。
しかし残念ながら我が国においては歴史の浅さによるセラピスト養成システムや精油規格の未熟さからアロマテラピーは本来の意味が失われかけ、巨大な美容産業の資本やお手軽な癒しチェーン業界のシステムに飲み込まれているのが現状です。
我々はまず、その位置づけを修正したいという思いから、医療現場よりオフィキナリスを発進させました。

我々が聞く一番多いクライアント様の声は、市中のサロンでは妊娠中の施術を受け付けてくれないということでした。
事実、IFA(International Federation of Aromatherapists)の規格でも妊娠中は特別の禁忌が設けられています。
妊娠は病気ではないといっても、この時期の予期せぬ事態は大きな結果につながりやすく、それが医学的知識を持つ訓練されたセラピストが行った問題のない施術だったとしても、人情としてはそこへ責任を持っていきがちです。
美容や癒しを目的とする市中のサロンは、この結末の責任を負いきれませんでした。
しかし、妊娠から出産、さらにはその後の期間は、女性の身体が一生で最も大きく変化する時期で、ホルモンのバランスの変化と身体の変容により、精神的にも肉体的にも助けを求めることが多くなります。
私たちは勉強すればするほど、このような時期に手を差し伸べることこそアロマセラピストの本質なのではないか、しかも医療機関がバックグラウンドにある現在のスタンスは非常に意義があるのではないかと思うようになりました。

女性の一生の中には、妊娠・出産時と同じくらい身体的・肉体的変化が激しい時期がもうひとつあります。
閉経を境とした更年期と呼ばれる時期で、ホルモンの急激な変化に身体が戸惑って悲鳴をあげているのに、周囲からなかなか理解の得られない辛い症状は、その無理解がゆえに心を傷つけられ、さらに悪化して、医学的な治療を受けていても、生活の質(QOL)が上がらないと感じます。
私自身も経験したこの時期をオフィキナリスではPrecious−age(価値ある時)と名づけて、アロマテラピーの価値が最大限に発揮できる時期だと考えます。

さらには、空前のスピードで変化していく社会の中で、素晴らしい仕事を次々にこなしていく女性も多くなりました。文化が成熟し物質的な欲求が満たされると、次にやってくるのはそのポジションを守るストレスだと言われています。
過剰なストレスは精神と肉体を疲弊させ、自律神経やホルモンのバランスを崩してさまざまな症状を心身に引き起こします。ストレスという精神の負荷から引き起こされる身体の症状は、一律・部分的な治療ではなかなか緩和されにくいものです。ホリスティックな眼でクライアント様を捕えるアロマテラピーが意味を持つのはまさにこのようなステージではないでしょうか。

女性が一生を通して経験していく身体と環境の変化に伴う特有のさまざまなマイナートラブルや心の揺れは「女性なら当たり前」と言われて久しく、よほどの症状が無い限り産婦人科の治療の対象にはなってきませんでした。そのような医療と日常の間にある誰もが持っている小さな隙間をを埋めて価値のある日々を作り上げるサポートをすることこそが我々の仕事であると考えます。

70年前にガットフォセが夢見たアロマテラピーの輝かしい未来。
その舞台のほんの一端に、でもクライアント様にとってはすぐおそばに、オフィキナリスは存在しています。