ガットフォセを始めとして歴代の化学者や医師が、精油の効用と実用性については膨大な時間と症例により証明しているとはいえ、アロマテラピーは「疾患を治す」ことや、「美しくなる」「痩せる」というような明確な効果を掲げることができません。ゆえにクライアント様にご理解いただくことが非常に難しい分野です。
理由として、植物から採取されたエッセンシャルオイルという化学合成されていない自然の産物を使用するため、原料に含有される有効成分のみを化学的に取り出して化合した医薬品とは異なり、効果が多岐に亘り強調されにくいこと、エビデンスの提出が義務付けられておらず、生体的な統一資料がないことなどが挙げられ、これがアロマテラピーをファジーな印象にし、効果のみを最優先にされる方々からはなかなか第一の選択としていただけない原因ではないかと思います。

それならばなぜ、アロマテラピーか、と問われれば、我々は「香りがあるから」と即答します。
嗅覚は人間の五感の中で一番解明が遅れている感覚だと言われています。
ゆえにこれまで香りの「文化」は存在しても香りの「科学」はなかなか表舞台に出てきませんでした。
しかしここへ来て急速に嗅覚の持つ驚くべき力が注目され始めました。それは文化が成熟したことや、急速な社会の変化により多くの人々がストレスという大きな荷物を架せられたことと無関係ではありません。
気体の中の香りの分子を受け取る嗅球という部分は大脳の中にあり、人間の原始的な感覚(食欲・性欲・生命力など)を掌る辺縁系と呼ばれる部分や、抗ストレスホルモン(コルチゾンなど)を始めとするさまざまなホルモンの調整をする視床下部に接し、その働きに多大な影響を及ぼすといわれています。
ストレスを軽減させることができなかった場合、人々はそれを受け止める自分の状態に着目し始め、バランスを保つための、ひとつの、しかもかなり有効な手段として、香りの力は探求者たちの視線を集め始めることとなったのです。

嗅球に捕らえられた香りの分子はインパルスとして瞬時に大脳に伝えられ、人間の感覚や感情に作用します。
南国のホテルで香り高いピカケのレイを受け取った途端、ふわりと身体を包む幸福感と開放感を思い出してください。それがまさに嗅覚が身体に作用を及ぼした瞬間です。
芳香分子のインパルスは脳を刺激して緊張を解き、内分泌系に働きかけて、ストレスを迎え撃とうと身構えた身体反応を鎮めます。
アロマテラピー(=芳香療法)というガットフォセの命名の意味は、ここに集約します。

エッセンシャル・オイルの持つ生理的な効果に限りなく大きな意味を持たせていくのは、この香りに他なりません。
我々セラピストが扱うことのできる何十種ものエッセンシャルオイルの中から選び抜かれブレンドされた心が解き放たれる香りにクライアント様が出会った時、アロマテラピーの価値は最大限に発揮されたことになります。
アロマテラピーを受ける意味は、このように身体のマイナートラブルに働きかけるエッセンシャルオイルの体験的な効用を、香りによってさらに奥行きのある解釈に変えていくことにあり、また、その考えや方法を日常に取り入れて継続していくことで、生活の質全体を上げることこそがアロマテラピーにおける最終目的なのです。